- しべりあの雪の奥から吹く風か
- なつかしや未生以前の青嵐
- 人間の海鼠となりて冬籠る
- 今そこに居たかと思ふ火燵かな
- 先生の銭かぞへゐる霜夜かな
- 妹がかぶる手拭白し苗代田
- 客僧の言葉少き夜寒かな
- 早乙女の日足を見るや笠の内
- 藁屋根に鶏鳴く柿の落葉かな
- 煙草屋の娘うつくしき柳かな
- 徒に凍る硯の水悲し
- 哲学も科学も寒き嚔哉
- 炎天や裏町通る薬売
- 冬川や朽ちて渡さぬ橋長し
- 雲の峯見る見る雲を吐かんとす
寺田寅彦 プロフィール
寺田 寅彦(てらだ とらひこ、1878年(明治11年)11月28日 - 1935年(昭和10年)12月31日)