- 鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉
- 寝ごゝろやいづちともなく春は来ぬ
- 罷出たものは物ぐさ太郎月
- 初午や物種売に日の当る
- 池田から炭くれし春の寒さかな
- 關の戸の火鉢ちひさき余寒かな
- 野とゝもに焼る地蔵のしきみかな
- しのゝめに小雨降出す焼野かな
- 暁の雨やすぐろの薄はら
- 二もとの梅に遅速を愛すかな
- さむしろを畠に敷て梅見かな
- 鶯に終日遠し畑の人
- 草の戸や二見のわかめもらひけり
- 暖簾に東風吹く伊勢の出店かな
- 春の水山なき国を流れけり
- なつかしき津守の里や田螺あへ
- ぬなは生ふ池の水かさや春の雨
- わか鮎や谷の小笹も一葉行
- 蘆塞で立出る旅のいそぎかな
- 春雨やゆるい下駄借す奈良の宿
- 耕や鳥さへ啼ぬ山陰に
- 枸杞垣の似たるに迷ふ都人
- 古井戸のくらきに落る椿かな
- 垣越にものうちかたる接木かな
- 捨やらで柳さしけり雨のひま
- 裏門の寺に逢著す蓬かな
- 折もてる蕨しほれて暮遅し
- 旅人の鼻まだ寒し初ざくら
- よし野出て又珍らしや三月菜
- 梨の花月に書よむ女あり
- 誰ためのひくき枕ぞはるのくれ
- 肘白き僧のかり寝や宵の春
- 春月や印金堂の木の間より
- 花ぐもり朧につゞくゆふべかな
- 春の海終日のたりのたりかな
- 菜の花や月は東に日は西に
- なの花や笋見ゆる小風呂敷
- 菜の花や鯨もよらず海暮ぬ
- 菜の花や皆出払ひし矢走船
- 春風や堤長うして家遠し
- 春風のつまかえへしたり春曙抄
- 春風のさす手ひく手や浮人形
- 凧きのふの空のありどころ
- 花を踏し草履も見えて朝寝哉
- 難波女や京を寒がる御忌詣
- 海棠や白粉に紅あやまてる
- ゆかしさよ樒花さく雨の中
- よもすがら音なき雨や種俵
- 苗代や蔵馬の桜散りにけり
- 一とせの茶も摘にけり父と母
- 今年より蚕はじめぬ小百姓
- 閣に座して遠き蛙をきく夜かな
- 蓮哥してもどる夜鳥羽の蛙かな
- つゝじ野やあらぬ所に麦畑
- 山もとに米踏む音や藤の花
- ゆく春や逡巡として遅ざくら
- 行春や撰者を恨む歌の主
- ゆく春やおもたき琵琶の抱ごゝろ
- 返哥なき青女房よくれの春
- いとはるゝ身を恨寝やくれの春
- 春をしむ人や榎にかくれけり
- 遅キ日や雉子の下りゐる橋の上
- 遅き日のつもりて遠き昔哉
- 遅き日や谺聞ゆる京のすみ
- 春の夕はへなむとする香をつぐ
- 山寺や撞そこなひの鐘霞む
- 色も香もうしろ姿や弥生尽
- 風声のおり居の君や遅桜
- 朧夜や人彳るなしの園
- 暮んとす春をゝしほの山ざくら
- みよし野ゝちか道寒し山桜
- まだきともちりしとも見ゆれ山桜
- 牡丹散てうちかさなりぬ二三片
- 御手打の夫婦なりしを更衣
- 小原女の五人揃うてあはせかな
- 粽解いて蘆吹く風の音聞かん
- 薬園に雨降る五月五日かな
- ねり供養まつり皃なる小家かな
- なつかしき夏書の墨の匂ひかな
- 三井寺や日は午にせまる若楓
- 蚊帳を出て奈良を立ちゆく若葉かな
- 浅間山煙の中に若葉かな
- 掘食ふ我たかうなの細きかな
- 卯の花のこぼるゝ蕗の広葉かな
- 蚊の声す忍冬の花の散るたびに
- 梢より放つ光やしゆろの花
- 花いばら故郷の路に似たるかな
- 愁ひつつ岡にのぼれば花いばら
- 麦の秋さびしき貌 の狂女かな
- みじか夜や枕にちかき銀屏風
- 渋柿の花ちる里と成にけり
- 口なしの花さくかたや日にうとき
- 雷に小屋は焼れて瓜の花
- さみだれや大河を前に家二軒
- 来てみれば夕の桜実となりぬ
- 青梅に眉あつめたる美人かな
- 葉を落ちて火串に蛭の焦る音
- 飛び石も三つ四つ蓮のうき葉かな
- ぬなはとる小舟にうたはなかりけり
- 河骨の二もと咲くや雨の中
- 藻の花や小舟よせたる門の前
- 夏河を越すうれしさよ手に草履
- 鮎くれてよらで過行夜半の門
- 川狩や楼上の人の見しり貌
- 水深く利鎌鳴らす眞菰苅
- 飛蟻とぶや富士の裾野ゝ小家より
- 蚊遣して宿りうれしや草の月
- 青のりに風こそ薫れとろゝ汁
- おろし置笈に地震ふるなつ野かな
- 若竹や夕日の嵯峨となりにけり
- 夕風や水青鷺の脛をうつ
- かりそめに早百合生けたり谷の房
- 渡し呼草のあなたの扇かな
- 朝風に毛を吹れ居る毛むしかな
- 夏山や通ひなれたる若狭人
- 細脛に夕風さはる簟
- 床涼笠著連歌のもどりかな
- 宗鑑に葛水たまふ大臣哉
- ところてん逆しまに銀河三千尺
- 鮓おしてしばし淋しきこゝろかな
- 草いきれ人死にゐると札の立つ
- わくら葉に取ついて蝉のもぬけかな
- かけ香やわすれ貌なる袖だたみ
- 兄弟のさつを中よきほぐしかな
- 酒を煮る家の女房ちよとほれた
- 腹あしき僧こぼし行く施米かな
- あふみ路や麻刈あやめの晴間哉
- 水の粉もきのふに戻るやどり哉
- 初秋や余所の灯見ゆる宵の程
- 梶の葉を朗詠集の栞かな
- 魂棚をほどけばもとの座敷かな
- 大文字や近江の空もたゞならぬ
- 攝待へ寄らで過行く狂女かな
- 三徑の十歩に尽きて蓼の花
- 雨そゝぐ水草の隙や二日月
- 住む方の秋の夜遠き火影かな
- 葛の葉の恨み顔なる細雨哉
- 蓑虫や笠置の寺の麁朶の中
- 待宵や女あるじに女客
- 蜻蛉や村なつかしき壁の色
- 秋の幮主斗りに成りにけり
- 狩衣の袖より捨つる扇かな
- 鯊釣の小舟漕ぐなる窓の前
- おのが葉に月おぼろなり竹の春
- 野路の秋我後ろより人や来る
- 紅葉してそれも散行く桜かな
- 心憎き茸山超ゆる旅路かな
- 新米にまだ草の実の匂ひかな
- 毛見の衆の舟さし下ダせ最上川
- 落し水柳に遠く成にけり
- 行秋のところ/" ̄\や下り簗
- 鮎落ていよ/\高き尾上かな
- 小鳥来る音うれしさよ板庇
- 鵯のこぼし去りぬる実の赤き
- 子狐のかくれ皃なる野菊かな
- うれしさの箕にあまりたるむかごかな
- 落日の潜りて染る蕎麦の茎
- さればこそ賢者は富まず敗荷
- 落穂拾ひ日当る方へ歩み行く
- 掛稲に鼠啼なる門田かな
- 梅もどき折るや念珠をかけながら
- 冬近し時雨の雲もこゝよりぞ
- 紅葉見や用意かしこき傘二本
- から堀の中に道ある照葉かな
- 打返し見れば紅葉す蔦の裏
- ひつぢ田の案山子もあちらこちらむき
- 行秋やよき衣着たるかゝり人
- 山雀や榧の老木に寝にもどる
- 戸を叩く狸と秋を惜みけり
- 銀杏踏みて静かに児の下山かな
- 茯苓は伏し隠れ松露は露れぬ
- 腹あしき僧も餅食へ城南祭
- 口切や小城下ながら只ならぬ
- 夜泣する小家も過ぬ鉢叩き
- 麦蒔の影法師長き夕日かな
- 鷹狩や畠も踏ぬ国の守
- 御火焚や霜うつくしき京の町
- 顔見世や夜着をはなるゝ妹が許
- 水鳥やてうちんひとつ城を出る
- 鴛や池におとなき樫の雨
- 冬ざれや小鳥のあさる韮畠
- 葱洗ふ流もちかし井手の里
- 我のみの柴折りくべるそば湯かな
- 妻や子の寝貌も見えつ薬喰
- 既に得し鯨は逃て月ひとつ
- 乾鮭や琴に斧うつひゞきあり
- 炭団法師火桶の窓から窺けり
- 炭がまの辺しづけき木立かな
- 炭俵ますほのすゝき見付たり
- 炭売に鏡見せたる女かな
- 我骨のふとんにさはる霜夜かな
- 狐火や髑髏に雨のたまる夜に
- 年守るや乾鮭の太刀鱈の棒
- 細道になり行く声や寒念仏
- 寒声や古うた諷ふ誰が子ぞ
- 氷る燈の油うかがふねずみかな
- 雪沓をはかんとすれば鼠行
- 雪折も聞えて暗き夜なりけり
- 寒月や枯木の中の竹三竿
- 冬の梅きのふやちりぬ石の上
- 子燈心ことに御燈の光かな
- 宿かせと刀投出す吹雪かな
- にしき木の立聞もなき雑魚寝かな
- 夜興引や犬のとがむる塀の内
- 闇の夜に終る暦の表紙哉
- 三椀の雑煮かゆるや長者ぶり
- 朝日さす弓師が店や福寿草
- 藪入や浪花を出て長柄川