- 張りつめし氷のなかの巌かな
- 暁や湖上を走る青嵐
- 草枯や海士が墓皆海を向く
- 雪山はうしろに聳ゆ花御堂
- 麦刈て近江の海の碧(あお)さかな
- 松の内面白き手紙来る事よ
- 窓の日や手毬の唄の夢心
- 我家の水音に年新たなり
- 年玉のかずかずに灯や枕元
- 春立や蒲団清らに雨を聴く
- こまごまと垂氷す春の暁に
- 離愁とは土筆の如きものなるか
- 龍天に黄帝の御衣翻へる
- 月の暈牡丹くづるゝ夜なりけり
- 村の子の草くぐりゆく清水かな
- 大いなる泉を控へ酒煮かな
- 朝日子をそびらに負うて矢数かな
- 村塾に鮓を圧す因つて詩を講ず
- 編笠や人に知られし面魂
- 抱籠や碧紗を隔つ夜の空
- 恋もなき草刈共や虎が雨
- 露涼し木末に消ゆるはゝき星
- 秋の蛍女は夜を淋しがる
- 我庭の月や籾する隣あり
- 椎の実の八升ばかりこぼれける
- 唐黍の風や秋社の戻り人
- 瓢一ツいつ迄もいつ迄も下りけり
- 風北に変り豆引働きぬ
- 卓上や菊の盃菊の酒
- 暮に出でゝ萩咲けるあたり人恋し
- 夕風やさいかちの実を吹き鳴らす
- 月西へ寒念仏の声遠くなり
- うつむきてしぐるるままや馬の上
- むらしぐれ幾たび馬の躓きぬ
- 寝ぬる頃少し残りし炭火かな
- 洗はざる葱買ふて山に帰るかな
- 方正を守る豆腐や狸汁
- 張りつめし氷の中の巌かな
- 帰りつけば妻は大根引きて居り
- 六月の樹々の光に歩むかな
- 木枯や脂がかりし魚の味
- 草枯や海士が墓皆海に向く
- 秋立つか雲の音聞け山の上
- 花野ゆく耳にきのふの峡の聲
- つゆ涼し夜と別るゝ花の様
石井露月 プロフィール
石井 露月(いしい ろげつ、1873年(明治6年)5月17日) - 1928年(昭和3年)9月18日)