つべこべ【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】




つべこべ言う俳句は嫌われます。つべこべとは、道徳、教訓、理屈、分別、気取り、風流、人情などのこと。つまり「いいことを言ってやろう」と自信満々な句です。作者の意気込みとは裏腹に、空虚なスローガンに感じられてしまいます。

道徳、教訓、分別、はわかりますよね。ものには本音と建て前があり、この三つはいかにも建て前。押し付けられると「うるせえよ」と言い返したくなります。芭蕉は「俳諧は三尺の童にさせよ」と言いました。小さな子どもには、おもねりや先入観がありません。素直な目で見て句に詠むことこそが大切という教えです。俳句の世界に俗世間の処世術を持ち込む必要はありません。

では、気取りは?度が過ぎると鼻持ちならない感じ。風流は?一見いいことのようですが、ともすれば通俗的になりがち。最後に人情。家族愛、隣人愛、師弟愛などを詠むには、具体性や斬新な切り口が必要です。一般論で終わっては、べたべたな甘ったるい句になってしまいます。

朝顔や百たび訪はば母死なむ   永田耕衣

禅の味わいのある句を残した耕衣。母を詠んだ句としては異色の作品です。実は耕衣の母思いは有名で、九十歳で母が亡くなるまでの二十年間訪問のたびに自らあんまを行ったそうです。ですが、そのエピソードを俳句にしても「いい作品だね」で終わってしまいそう。掲句のようなインパクトはとても望めません。

母死ねば今着給へる冬着欲し

こちらも耕衣の作品。一筋縄ではいかない作品が続きます。人情を詠むならこのくらいの迫力が欲しい、と自分に言い聞かせています。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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