いどうショット 移動ショット【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】

撮影技法の一つで、ドリーとも呼ばれます。レールを使用した大掛かりな撮影となるのですが、忘れがたい効果を残すことができます。有名なもののひとつはデビッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」。ヨルダン南部の港湾都市アカバの攻略を目指す、ロレンスの騎馬隊が市街を駆け抜けるシーン。砂漠から土煙をあげた騎馬隊が市街に突入し、そのまま迷路のような街路を四方に別れれて進み、やがて紅海の渚に至ります。アカバ守備隊の大砲は、全て海に向けられており砂漠からの攻撃には無防備だったのです。長い長い移動ショットは、海を睨む砲台でストップします。当時、映画撮影では最長のレールを敷設したことで知られたシーン。

最近の映画で印象的だったのは、アルフォンソ・キュアロン監督の「ローマ」。1970年代のメキシコ・シティーを舞台に、家政婦の視点でメキシコの現代史が描かれます。海辺の家政婦と奉公先の家族。子ども達が海へ駆け出します。カメラは浜にとどまりますが子どもたちは帰ってきません。目を上げた家政婦が海へ向かいます。走り出してそのまま海へ。大波がカメラを洗いますが構わず沖へ向かって行きます。溺れかけた子どもたちを腕に抱いて岸へと戻る家政婦。初見の際、どうやって撮影したのか?と疑問に思いましたがメイキングを見て納得しました。浜辺にはレールを敷き、海上では長いクレーンを伸ばしていたのです。こんなふうに、ワンカットで映画の印象を永遠のものとする移動ショット。編集によるカットの切り替えでは決して得られない臨場感があります。俳優も観客も同じ時間の流れを体験するからです。

さて、絶大な効果を上げるこの撮影技法。俳句でも使われることがあるのです。

夏帽子木陰の色となるときも  星野高士

夏帽子は暑さを防ぐためにかぶる帽子。麦わら帽子やパナマ帽、カンカン帽がそれにあたります。木陰の色となるときも、ということは木陰を出れば空の色。風の色。海の色。主人公の移動にあわせて様々な色に照り映えます。最近では帽子をかぶる男性が減ってしまいましたから、時代は昭和か大正。避暑地の一場面なのかもしれません。パナマ帽であれば、レトロな白い麻のスーツが似合います。この句の中でカメラは主人公にゆっくりとついて動きます。移動感を増すために、近くに何かを引っ掛けて撮影します。例えば、近景に疎林を置き、中景に帽子の主人公を歩かせます。カメラの移動にあわせて手前の木が見え隠れし、その向こうの木陰をゆく夏帽子が見えます。遠景には日の当たる山並みがあります。帽子に落ちる木の影が変化し、様々な模様を描きます。移り変わる背景と光が、広大な空間を感じさせます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 




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