かんじ・幹事【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】

句会や吟行には幹事が必要です。

句会の会場の予約や用紙の用意。吟行の行き先や集合場所、時間を決めるのは幹事の仕事です。吟行とは俳句をつくるため景色のよいところや名所旧跡などに出かけること。どこに行ってもいいのですが、何故か幹事は神社仏閣が大好きで大抵そういう場所が選ばれます。

そうすると、場所が古臭いから月並みな句しか詠めなかった、と苦情を言われます。ちなみに「月並み」とは平凡すぎてなんの取り得もない句を上品に呼ぶときの言葉です。多くの幹事は抗議を無視しますが、たまに良心的なひとがいると 一念発起して野球場とか動物園とか美術館とか毛色の変わった場所を選んだりします。

すると今度は、人工的な場所の中では季語が見つからず、いい句が詠めなかったと泣き言を言われます。 やってみるとわかりますが、古臭くも人工的でもない場所を探そうとするとなかなか難しく、例えば海水浴場などを提案すると、遠い、お金がかかる、暑い、混んでいる、泳げない、水着がない、日に焼ける、若者ばかりだ、腰が痛い、忙しい、などたちまち十ばかりの問題点が指摘され行き詰まる結果となります。

さらに雨が降ったり、雪になったり、お天気ほどあてにならないものはありませんが何か不都合があると非難されるのは幹事。仮に吟行がうまくいったとしても次に句会の会場を確保しなければなりません。会議室を借りるとお金がかかり、公民館を申し込むと既に予約でいっぱい。運よく空いていても畳の部屋は膝が痛いから嫌だと文句を言われます。

喫茶店は狭くてうるさく、居酒屋は酔っ払って暴れるひとが現れます。このように吟行の幹事には多くの責任がのしかかりますが、報酬はなく感謝されることもありません。

海に行かぬ十の理由や冷奴 一人

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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