いつ「凍つ(冬)」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




服喪かな全土凍てつく燈を落とし  中原道夫「一夜劇(2016)ふらんす堂」

十一月十五日パリ・シャルル・ド・ゴール空港着と言う前書きがついています。パリの緊迫した状態を告げる掲句。実は同時多発テロが起きた直後のパリ入りだったのです。「主謀者の潜んでいた隠れ家から然程離れてゐない所に私の宿はあり、その距離から當然緊張は強ひられた。(中略)そんな事態の中でも界隈の盛り場ではイスラム系の犯人と同じ人種の人達が店を開け、客を入れ何事もなかったやうに営業してゐる」と後書きに。ニュースが告げる非常事態と、そんな中でも変わらない日常。現実の世界のリアルがありのままに描き出されます。句集の最後を飾る三十三句がパリでの事件に関連したもの。俳人が国際的な事件に遭遇した時に何が詠めるのか。それを詳らかにした句集です。
まさに身も心も凍り付くような体験。季語「凍つ」が緊迫感を告げます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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