きくのきせわた「菊の被綿(秋)行事」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




奥座敷菊の被綿なるを手に   岸本葉子「つちふる(2021)角川書店」

エッセイストで小説家、NHK俳句第二週の司会もつとめる作者の第一句集。菊の被綿とは古風な季語。平安時代、重陽の日に、菊の花に真綿を被せ、翌朝朝露を含んだ綿で体を拭くと無病であるという言い伝えがありました。その綿が「菊の被綿」。中国で、菊の花びらの浸かった滝水を飲んだ人が 長寿を得たという故事によります。重陽は旧暦九月九日のこと。古来偶数は陰、奇数は陽と考えられ、陽数の九を重ねることから九月九日が重陽と呼ばれました。

掲句は、奥座敷に通されて、菊の被綿を手に取った際の感慨が詠まれています。奥座敷があるのですから、きっと大きなお屋敷。旧家を想像させます。「被綿なる」の「なる」がよく効いていると思いませんか。それにより「これがあの名高い被綿というものか」という驚きが感じられるのです。それで嬉しかったとも、しみじみしたとも、言わないところが俳句。あとは読者の想像に任されます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)






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