包丁をくわつと銜へし南瓜かな 益岡茱萸「汽水(2015)ふらんす堂」
料理する人の実感でしょう。丸ごとの南瓜に包丁を入れる場面です。思いの外固く、途中で刃が止まります。押しても引いても動きません。それを「くわつと銜へし」と表現した。まるで南瓜が生きているようです。ハロウイーンのお化けランタンからの連想かもしれません。このままでは料理できないので、全体重を包丁の背にかけます。やっと少し刃が動きます。切るというよりは割る感じ。なんとか状況を打開できましたが、まだ何箇所も切らなければなりません。南瓜の恨めしそうな顔が目に浮かびます。
南瓜には日本南瓜、西洋南瓜、観賞用南瓜の三種類があるとか。「日本種はアメリカ大陸原産で16世紀に渡来。実は扁球形で肉質が柔らかく粘り気がある。西洋種は中南米の高地原産で明治以降に渡来し、肉質が硬く粉質」と歳時記に。掲句は西洋種ではないかと思いました。きっとこの後はパイになるのでしょう。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)