ぶよ「蚋(夏)」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




蚋ふたつ回れり軸の違ひつつ  鴇田智哉「エレメンツ(2020)素粒社」

ぶよと読みます。蚊に似ていて全長3~4ミリほどの昆虫のこと。刺されると腫れあがりその痒いことといったら!蚋と比べたら蚊なんて可愛らしいものです。無季の句も詠む鴇田さんなのに、この句は写生に徹しています。二匹の蚋がぶんぶんと輪をかいて飛び回っています。しかしぶつかりません。互いの軌道がずれているからです。回る、軸という言葉で普通なら独楽を連想します。それを昆虫の動きに用いたことで、力学の法則のような普遍性を手に入れました。つまり、「今見ているのは二匹の蚋だが、すべての蚋というものは(軸を違えて回る)ものなのだ。」こう宣言しているかのようです。近づいても決して触れ合うことのない蚋たち。なんとさみしい存在なのでしょうか。

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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