はつなつの木肌図鑑を傍に 藤井あかり「封緘(2015)文學の森」
木肌図鑑という言葉に惹かれました。植物図鑑には花や果実、葉は丹念に紹介されているものの、木肌はあまり注目されていません。しかし、樹皮にはいろいろな形状があり仔細に見ると興味深いもの。作者は散歩や山歩き、おそらく吟行で出会った木肌を携行した図鑑でチェックしているのでしょう。あるいは帰宅してから調べているのかもしれませんが。掲句、はつなつという響きが心地いい新緑の風を感じさせてくれます。
私も遅ればせながら、樹皮をネットで調べてみました。ありました、ありました。鹿の子模様のヒメシャラやナツツバキ。コルク層の発達したクヌギ。鱗片状に剥がれるトチノキ。つるっとしたブナやアラカシ。樹皮に棘のあるタラノキ。樹皮が縦に裂けるクリ、コナラ。横縞のあるシラカバ、ヤマザクラ。赤いヒノキやサカキ。その多彩さに驚きました。近頃は植物の写真を撮っただけで名前を教えてくれるアプリがあり、私もスマホにダウンロードしています。これまでは花の名を調べるだけでしたが、試してみると樹皮もある程度ヒットしました。名前がわかると吟行が十倍楽しくなるはず。あなたも是非お試しあれ。
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」