のうぜんに火薬を詰めておきました 夏井いつき「梟(2020復刊)朝日出版社」
「ノウゼンカズラ科の蔓性落葉樹。七〜八月に橙色の漏斗状の花が咲く」と歳時記に。夏のひととき壁や塀を蔓が這い上がり、オレンジ色の花をつけます。鮮やかではありますが、深みのある彩ではありません。まさに爆発したような色彩と炎のような花のかたち。写生句とも読めるのですが「火薬を詰めておきました」という言い方がなんとも不穏です。口語で日常のありふれた話題を述べているように見せながら、実は底意も感じられる。こういう句を目にすると俳句って、奥が深いなあとしみじみ思います。
ではこの後どうなるのか。火薬を詰めた後のことです。初めはあちこちで、ぽつぽつと火がつきます。蔓に沿って燃え広がって行きます。まるで導火線のようです。次第にきな臭くなり爆発の瞬間が迫ってきます。そして、その時を迎えます。町中が炎に包まれます。静かな大爆発です。暑い盛りに、その暑ささえ吹き飛ばすような色彩の饗宴です。
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」