玉虫のごと褒めらるる死後ありや 小島健「山河健在(2020)角川書店」
タマムシ科の甲虫。紅紫色の太い二本の筋が縦に走り、全体に金緑色の金属的な光沢を放っています。この玉虫の翅を装飾に用いたのが法隆寺に伝わる玉虫の厨子。私も見たことがあるのですが、流石に色あせて往時の輝きはありません。しかし出来上がったばかりであれば、どれほど輝いていたことか。金属の鏡面仕上げやメタリック塗装のなかった時代に、人々を驚かせたことは間違いありません。この句の「褒めらるる」は、この玉虫の厨子を念頭に置いた措辞でしょうか。法隆寺のことは何も言わなくても伝わるところが、凄い。虎は死して皮を残し、玉虫は死して翅を残す。さて、それならば人間は何を残すのでしょうか。名誉?財産?それとも芸術?
そんなことを考えていたら、先日のニュースを思い出しました。福岡県古賀市の船原古墳から7世紀の馬具が見つかったというのです。その馬具にも玉虫の飾りが。国宝級の発見と、専門家は述べていました。
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」