我のなき一と日が見たし百日紅 小島一慶「入り口のやうに出口のやうに(2019)ふらんす堂」
病の告知の後に詠まれた一句。後書きにはこう記されています。
それは本人にとって狐につままれたような出来事だった。かみさんの検査の付き添いで行った病院で、僕も序でに、CT検査を受ける事になった。夏風邪と思しき咳が、長く続いていたのだ。そして、診断。『奥さんに問題はありません。但し、ご主人の方は、重篤な肺がんです』写真にうつる右肺は、殆ど、真っ白だった。これでは、友達のオーディションに付いて行って、此方が、主役の座を射止めたようなものである。
ユーモラスな筆致ながら、切迫した様子が伝わってきます。百日紅は花の命の長い花。赤い花が百日も咲き続けることから百日紅と表記します。「花よ、どうか自分がいなくなった世界を見届けておくれ」という痛切な思い。この句からは死への覚悟と同時に、命をいつくしむ気持ちが強く伝わってきます。
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」