エゴイストてふ香水の尾の過ぎて 益岡茱萸「汽水(2015)ふらんす堂」
香水をつけた人と、街ですれ違う。気になって過ぎたあとを振り返る、そんな光景を想像しました。残り香を香水の尾と表現しているのが心憎い。まるで美しく敏捷な生き物のようです。
さてエゴイストってどんな香水なのか。気になって調べてみました。シャネルの男性用の香水だそうです。香水といえば女性がつけるもの。そんな先入観がまず崩れ落ちました。紹介ページには「ウッディ・スパイシー・アンバーというそれぞれ特徴的な香りを見事に調和させ、意志の強さと圧倒的な個性を持つ魅惑的な男性を表現。初めはマンダリン・コリアンダーのフレッシュな香り、続いてオリエンタル・ローズの華やかな香りに変わり、最後はバニラ・アンブレットシードの官能的な香りに」と記されています。正直言って半分も理解できませんが、どうやら大人っぽいセクシーな香りのようです。それも意志の強さと圧倒的な個性を持つ男性にしか似合わない香り。そう聞いて私が思いつくのは「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンくらい。
そもそもエゴイストとは利己主義者のことですから、よほど素敵でないと我慢できません。映画の中のドロンは、友人を殺してなりすまし、その恋人を平気で盗むような男でした。それなのに、いつまでも眺めていたくなるような魅力に溢れていたのです。今度この句を読むときは、ニーノ・ロータのあのメロディを口ずさんでみたいと思います。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」