かきごおり「かき氷(夏)生活」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




テーブルに七味散りをりかき氷   小野あらた「毫(2017)ふらんす堂」

かき氷の句としてはかなり異色。かき氷と七味の取り合わせなど見たこともありません。それなのに「あるある」感が満載。いつかどこかで見た景色なのです。それどころか、テーブルを覆う安っぽいビニールや、それを雑巾で拭いた後の匂いまで立ち上がって来ます。要するに場末の食堂。かき氷もあるが、うどんもある。七味が散っているのですからね。多分、おでんやカレーライスもあるのでしょう。旅先の景かも知れません。七味が散ったままの店を行きつけにはしないでしょうから。

私なりに思案すると、この句のポイントは夏。夏休み、どこにでも行けたし何にでもなれたあの魔法の時間。旅に出て、バスを待つ間に駆け込んだ駅前の食堂のかき氷には、イチゴシロップがべたっと掛かっていました。おばちゃんが、どんとテーブルに置くと氷がこぼれて卓を濡らします。そこに目をやって、七味が散っているのに気づきます。ちっ、テーブルを拭いてもいないのかよと舌打ちしますが、抗議するでもなく黄ばんだ紙ナプキンで氷と七味を払います。その切ない体験。これらのことを一語で言うとすれば「青春」。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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