- うしろより初雪降れり夜の町
- うらがへし又うらがへし大蛾掃く
- かりがねのあまりに高く帰るなり
- オリオンの眞下春立つ雪の宿
- 乗鞍のかなた春星かぎりなし
- 人殺す我かも知らず飛ぶ蛍
- 冬ごもる子女の一間を通りけり
- 夜長人耶蘇をけなして帰りけり
- 大阪に三日月あがり日短かし
- 奧白根かの世の雪をかがやかす
- 寒雀身を細うして闘へり
- 山吹の中の二日を春祭
- 山吹や根雪の上の飛騨の径
- 山桃の日陰と知らで通りけり
- 新涼や豆腐驚く唐辛子
- 旅人に机定り年暮るる
- 早乙女の一群すぎぬ栃の花
- 春尽きて山みな甲斐に走りけり
- 春星や女性浅間は夜も寝ねず
- 春更けて諸鳥啼くや雲の上
- 春雪の暫く降るや海の上
- 眠る山佐渡見ゆるまで径のあり
- 神の留守立山雪をつけにけり
- 秋風の吹きくる方に帰るなり
- 立山のかぶさる町や水を打つ
- 絶壁のほろほろ落つる汐干かな
- 茅枯れてみづがき山は蒼天に入る
- 雪山に雪の降り居る夕かな
- 雪解川名山けづる響かな
- 霜つよし蓮華とひらく八ヶ嶽
- 駒ケ岳凍てて巌を落しけり
- 鳥とぶや深雪がかくす飛騨の国
- 大空の雲はちぎれて秋祭
- この雪に昨日はありし声音かな
- 虫なくや我れと湯を呑む影法師
- 秋霧のしづく落して晴れにけり
- 秋出水乾かんとして花赤し
- 遅参なき忘年会の始まれり
- 旅人に机定まり年暮るゝ
- 向日葵の月に遊ぶや漁師達
- 稲架かけて飛騨は隠れぬ渡り鳥
- 面体をつゝめど二月役者かな
- 如月の日向をありく教師哉
- 浅春の火鉢集めし一間かな
- 薬園に伏樋のもるゝ朧かな
- 三度炊きて遅日まだある大寺哉
- 石ころも雑魚と煮ゆるや春の雨
- 春雪に盲ひし如く閉しけり
- 雪解水どつとゝ落つる離宮哉
- 茶屋起きて雪解の松に煙らしぬ
- 春山を越す武士や肩に太刀
- 月出でゝ一枚の春田輝けり
- 乾坤の間に接木法師かな
- さし木すや八百万神見そなはす
- 我が思ふ孤峯顔出せ青を踏む
- 絶壁のほろ/\落つる汐干かな
- 雨水は溝を走れり桜餅
- 騒人の反吐も暮れ行く桜かな
- 花を見し面を闇に打たせけり
- 花人帰りて夜の障子を開きけり
- 花遅く御室尼達のうす着かな
- 椿落つる我が死ぬ家の暗さかな
- 霊泉にシヤボンつかふや明易し
- 傘さして港内漕ぐや五月雨
- 夏山や二階なりける杣の宿
- 片富士の雪解や馬に強薬
- 潮蒼く人流れじと泳ぎけり
- 濛雨晴れて色濃き富士へ道者哉
- 鮓切るや主客五人に違ふ皿
- 鮓なるゝ頃不参の返事二三通
- 好者の羽織飛ばせし涼みかな
- 水打たせて尚たれ籠る女房哉
- 水打つや明らさまなる唖な蝉
- 信者来てねぎらひ行くや蚊火の宿
- 月さすや沈みてありし水中花
- 舟遊の下りつくせし早瀬かな
- 蚊帳たれて山の気となる樵夫かな
- 羽抜鳥高き巌に上りけり
- 人殺ろす我かも知らず飛ぶ螢
- 水雞なく宿に眠れる蕩児かな
- 若竹に風雨駆けるや庭の奥
- 病葉の散るとてかへる山家かな
- 夏草を搏ちては消ゆる嵐哉
- 萍に膏雨底なく湛へけり
- 萍に伊吹見出でゝ雨上る
- 青梅も拾はで雨の板戸かな
- 新涼や豆腐驚く唐辛
- 高嶺より路の落ち来る秋日かな
- 秋の日や食籠を見る暗き棚
- 慌しく大漁過ぎし秋日かな
- 膝折れの蛼も啼け十三夜
- 膝長う座れる人や十三夜
- いづこより月のさし居る葎哉
- 月の人動く川尻の家居かな
- 山人のくしやみやとゞく秋の雲
- 葛籠なる小袖思ふや野分の夜
- 秋風に倒れず淋し肥柄杓
- 秋の雨盲めざめて居たりけり
- 露乾かで山茶屋ありぬ十一時
- 有る程の衣をかけたり秋山家
- 秋山に騒ぐ生徒や力餅
- 温泉にとめし眼を大切や秋の山
- さゞめきて秋水落つる山家かな
- 秋出水高く残りし鏡かな
- 秋出水濁して渉る壮夫かな
- 太鼓懸くれば秋燕軒にあらざりき
- 盗人とならで過ぎけり虫の門
- 落ち/\て鮎は木の葉となりにけり
- 菊切るや唇荒れて峯高し
- 桔梗や一群過ぎし手長蝦
- 山寺の局造りや鳳仙花
- 人の如く雞頭立てり二三本
- 一しきり木の実落ちたる夕日哉
- しみ/″\と日を吸ふ柿の静かな
- 水引や人かゝれ行く滝の怪我
- 葛の葉や飜るとき音もなし
- ころげ出て尻皆青き蜜柑哉
- 霜月や酒さめて居る蝮取り
- 赤々と酒場ぬらるゝ師走かな
- 山辺より灯しそめて冴ゆるかな
- 喜びの面洗ふや寒の水
- 争に勝ちし寒さや家にあり
- 武士の寒き肌や大灸
- 勧進の鈴きゝぬ春も遠からじ
- 鷹とんで冬日あまねし龍ヶ嶽
- どさ/\と夕日に落ちぬ塔の雪
- 農具市深雪を踏みて固めけり
- 荒れ雪に乗り去り乗り去る旅人哉
- 雪垂れて落ちず学校はじまれり
- 冬山や身延と聞いて駕籠に覚む
- 冬山や人猿に似て菓子を売る
- 海老汲むと日々に歩きぬ枯野人
- 冬海や人岩に居て魚を待つ
- 一人来てストーブ焚くやクリスマス
- 鐘なる間庭をありくや降誕祭
- 大いなる手に火のはねる火鉢かな
- 八ヶ嶽見えて嬉しき焚火哉
- 山火事を消しに登るや蜜柑畑
- 干足袋を飛せし湖の深さ哉
- 病む人の足袋白々とはきにけり
- がぶ/\と白湯呑みなれて冬籠
- 年木樵木の香に染みて飯食へり
- 湖を打つて年木の一枝おろされぬ
- 聖者の訃海鼠の耳を貫けり
- 落葉して蔓高々と懸りけり
- 星空や落葉の上を精進まで
- 花枇杷に色勝つ鳥の遊びけり
- 獅子舞や戯絵ふせたる机辺まで
- 藪入に鯛一枚の料理かな
- 藪入に餅花古りて懸りけり
- 湖の氷をよごす出初かな
- 如月や鶺鴒飜へる防波堤
- 一と山の煤の流るゝ二月かな
- 苔つけし松横はる二月かな
- 番匠や二月の水に小便す
- 二月野やさゞめき通る砂寄進
- 三月の雑誌の上の日影かな
- 反りかへる木の葉鰈や弥生尽
- オリヲンの真下春立つ雪の宿
- 雪五度立春大吉の家にあり
- 立春の暁の時計鳴りにけり
- 春浅く松は伐られぬ藪の中
- 春寒や埃をかぶる庭の雪
- 春寒し二枚敷きたる熊の皮
- 卵売り春の寒さを来りけり
- 懐炉二つ残る寒さを歩きけり
- 春寒し人熊笹の中を行く
- 蜜豆を二度見る夢や春寒し
- 雪つけし飛騨の国見ゆ春の夕
- 春宵の食事終れり観光団
- 額つりて小家賑し春の宵
- 朧夜や百姓の子の笛を吹く
- 高らかに堰の戸開けぬ朧月
- おぼろ/\水飲みに来し井の辺
- 蝕めるゆづり葉に春曇りけり
- 春曇り鳩の下り居る山路かな
- 春暗し立山の下にうづくまる
- 麗かや大荷をおろす附木売
- 行く春や大浪立てる山の池
- 行く春や布施の丸山見て過ぐる
- 徂春や鳥が巣かける駐在所
- 春光や石にからまる枯茨
- 瀬頭に打込む春の光かな
- 一すぢの春の日さしぬ杉の花
- 大空に春の月あり樹々の影
- 風出でゝ傾きそめぬ春の月
- 肥打つて棚田しづかや春の月
- 春月や謡をうたふ僧と僧
- 春月や軒を交へし肥小屋
- 海山に春の星出て暗きかな
- ひともとの椎にそゝぐや春の雨
- 春雨や蜷這ひ上る庭の石
- 淡雪の中に来て居し電車かな
- 春の雪藪につもりて輝けり
- 春雷や著莪が芽を吹く屋根の上
- 春雪の解くるが如く卒業す
- 雪解や妙高戸隠競ひ立つ
- 雪解風暁の戸を打ち居たり
- 春泥や夕刊飛んで地に落ちず
- 船上ぐる人の声かや春の海
- 春の海や暮れなんとする深緑
- 春の田に埃掃き出す坊主かな
- 幼児の足さぐり得つ春炬燵
- 出代りの来て居る広き厨かな
- うつばりの傘はづし出代りぬ
- われと子と命尊し二日灸
- 春眠をうつ春霰春あらし
- 土雛ありとしもなきあぎと哉
- 菓子を切る庖丁来たり雛の前
- 掛餅畳にとゞく雛の宿
- よく眠る御蚕に大幅懸りけり
- ふらこゝを掛けて遊ぶや神の森
- 鞦韆にしばし遊ぶや小商人
- 代馬や又廻り来し草の門
- 遠き祖の墳墓のほとり耕しぬ
- 炉塞や一枝投げさす猫柳
- 炉塞いでしとね並べぬ宿直人
- 炉塞いで人逍遙す挿木垣
- 青々と挿木の屑の掃かれけり
- 一鍬の田の土盗む挿木かな
- 口とぢて打ち重りつ種俵
- 種まくや火の見梯の映す水に
- 種俵大口あけて陽炎へり
- 只小さき句集二冊や春灯
- 啼き立てゝ暁近き蛙かな
- 境内に糞を落して囀れり
- 柊の一枝ゆるがし囀れり
- 高らかに鶯啼けり杉林
- 三椏や皆首垂れて花盛り
- 道端の垣なき庭や黄水仙
- 道も狭に耕馬の尻やすみれ花
- 鳶烏闘ひ落ちぬ濃山吹
- 駒鳳凰山吹曇りつゞきけり
- 余花散るや誰かわづらふ駐在所
- 蔓かけて共に芽ぐみぬ山桜
- 軒下に昼風呂焚くや梅の花
- 探梅行鶏おどろかし通りけり
- 木の芽かたし茫々として人の逝く
- 本堂に電燈つくや竹の秋
- 猫柳朝の郵便来りけり
- 家こぼつ埃上がるや猫柳
- 白椿咲けるが見ゆる竹の奥
- 竹林に椿折る人の声すなり
- 椿折る人の手見ゆる夕かな
- 流れ去る椿の臍の白きかな
- 大風に花のかくるゝ椿かな
- 舟過ぎし椿の下の早瀬哉
- 虞美人草のしきりに曲り明易し
- 明易き人の出入や麻暖簾
- 旅人みな袴をぬぐや明易し
- 明易や雲が渦まく駒ヶ嶽
- 青嵐や主従あきし麦の飯
- 大寺のうしろ明るき梅雨入かな
- 梅雨風や濁りて懸る金魚玉
- 葭切や郭公や梅雨の風に飛ぶ
- 日もすがら木を伐る響梅雨の山
- 梅雨の海静かに岩をぬらしけり
- 梅雨晴や鵜の渡り居る輪島崎
- 薬師立山しばらく見えし梅雨入哉
- 雫してわれからぬれぬ梅雨の松
- 梅雨の川芦一本にまがりけり
- 門前の二本の柿や梅雨さわぐ
- 蝶来るや梅雨の晴間の五葉松
- 菱刈りの面を叩く夕立かな
- 日盛や門前に打つ箔砧
- 人の面を流るゝ涙五月闇
- しら/\と明けて影濃し旱雲
- 朝夕瓜もみ食ふ旱かな
- 夏山や吊橋かけて飛騨に入る
- 浴衣着て帯胸高や弱法師
- 果物の汁の飛びたる浴衣かな
- 羅に人肌見えて尊とけれ
- 祭過ぎぬ木を挽く響隣より
- 先哲の墓に詣るや夏帽子
- 鮓の石金輪際に据ゑにけり
- 麦飯をぼろ/\食ひて涼しけれ
- 松の木に庭師来て居り昼寝覚
- 蚊の落つる音の嬉しき油団哉
- 麨を吹き飛したる畳かな
- 夏火鉢膝頭より大いなり
- 日除して青田に沈む小家かな
- 舟よりも大いなる日除漕ぎ行けり
- 昨日より日除をしたり農学校
- 月見草萎れし門に帰省せり
- 緑児の眼あけて居るや田植雲
- 田祭や蚤取粉打つて小百姓
- 箱の如き庭下駄のあり夏座敷
- 杉箸を染むるはなにか夏料理
- 寂寞と一汁あつし夏料理
- 夏料理ほゝけ防風反りを打つ
- 油蝉朴にうつりて鳴かざりき
- 教会の桜の毛虫焼かれけり
- 美しき毛虫を掃くや山の寺
- 毛虫焼く人の見ゆるや庭の奥
- 毛虫居たり竹の手すりの仮本堂
- 町を出てみな高声や螢狩
- 二三点鮎とぶ君がほとりかな
- 藤の芽を撓めて落ちぬ雨蛙
- 蛇の衣奥田の宿に脱がれけり
- 合歓咲くや此処より飛騨の馬糞道
- 笋の頭の見ゆる若葉かな
- 花桐や重ね伏せたる一位笠
- 杖もつて花ざかりなる茨かな
- 病葉や石にも地にも去年のやう
- 西瓜食ふやハラリ/\と種を吐く
- 人の居て葛の葉ゆれぬ木下闇
- 白ばかり咲きてけうとや立葵
- 咲き上げて紅勝ちぬ立葵
- 青あせて葵の蕾残りけり
- 白葵大雨に咲きそめにけり
- 罌粟坊主雨を湛へてこぼしけり
- 咲きやんで雛罌粟雨に打たれ居り
- 白罌粟の花より高し罌粟坊主
- 今朝秋や蜘蛛が巣かけし肥柄杓
- やゝ寒や座りて小さき隠し妻
- 花更へて本積みかへて夜寒なる
- 雲いろ/\彩る二百十日かな
- 行秋や人上り居る奉祝門
- つぎ/\の運動会や秋の行く
- 行く秋や隣の窓の下を掃く
- 大空に蜘蛛のかゝれる月夜哉
- 白々と縁にさし来ぬ後の月
- 枯松の頂白き月夜かな
- 二三人木の間はなるゝ月夜かな
- 月照るや雲のかゝれる四方の山
- 牛嶽の雲吐きやまぬ月夜哉
- 芋の葉の月に面を傾けぬ
- 能登人の四五人まじる月見かな
- 秋風や片側ぬるゝ神の松
- 登校や流るゝ霧に逆らひて
- 秋雨や敷居の上の御燈料
- 秋雨や葛這ひ出でし神の庭
- 大露に野の神ぬれて在しけり
- 我が児より大いなる犬露野行く
- 東京の汽車来て嬉し稲の露
- 落ち合ひて澄まんとするや秋の水
- 枯野来し人の指環の光りけり
- 戸一枚明けて子規忌の出入り哉
- へちま忌や其月老人庵を出づ
- ひし/\と毬栗さしぬ施餓鬼棚
- 月代に消え行く仕掛花火かな
- ふところに紺の香高し秋袷
- つゝましや秋の袷の膝頭
- 郡長の来て歩きけり下り簗
- 簗くづす水勢来りぬ石叩き
- とめどなく崩るゝ簗や三日の月
- こち向いて巨籟寝ねたり秋の蚊帳
- 朱の緒のなほ艶めくや別れ蚊帳
- 立山に初雪降れり稲を刈る
- 鳴き負けてかたちづくりす囮哉
- 厠遠しかの蛼の高調子
- 虫鳴くや向ひ合ひたる寺の門
- 虫来ぬと合点して居る読書かな
- 色鳥や末社の並ぶ松の中
- かへり来て顔みな同じ秋の蜂
- 毟らるゝ菊芳しき料理かな
- 拾ひ来て畳に置きぬ丹波栗
- 紅葉折る木魂かへすや鏡石
- 真盛りの水引を打つ大雨かな
- 曼珠沙華無月の客に踏れけり
- 掛け足して直ぐ赤らむや唐辛子
- 一叢の露草映すや小矢部川
- 秋草にまじりて高し花茗荷
- 旅人のよき蕎麦食ふや十二月
- 冬至湯の煙あがるや家の内
- 初冬のきたなき読書扇かな
- 路の辺に鴨下りて年暮れんとす
- 年行くや耳掻光る硯箱
- 春を待つ商人犬を愛しけり
- 雪折に狎れ住む春の隣かな
- 一吹雪春の隣となりにけり
- 冬雲や毎日通る肥車
- 礪波越すあわたゞしさよ幾時雨
- わが宿の客をぬらせし時雨かな
- 時雨るゝや水の流るゝ竹林
- 時雨るゝや電燈ともる車井戸
- 雪卸し能登見ゆるまで上りけり
- 天辺の雪を落しぬ高野槇
- 雪垂れて我が家ともなし夕日影
- 冬山や径集りて一と平
- 冬山や馬も清らに藁を敷く
- 十銭の商売するや冬山家
- 学校に冬山の径の一とうねり
- 谷底に吊橋かけぬ冬の山
- 只人の墓の群がる枯野哉
- 牛にあらず二上山の眠るなり
- 果樹園の門を閉しぬ山眠る
- 垣ひくし礪波医王の眠るかな
- 愛宕社のうしろに出でぬ山眠る
- 風当る我が家を出て入営す
- 粉炭に染みてなほある小石かな
- 古布子新しきごと畳まれぬ
- 手燭して乾鮭切るや二三片
- 山祇の出入りの扉あり雪囲
- あけくれに富貴を夢む風邪哉
- よき衣をたゝむや袖の風邪薬
- 葛湯して匙の足らざる温泉宿かな
- 風落ちて月現るゝ葛湯かな
- 時雨忌の人居る窓のあかりかな
- 芭蕉忌やみな俳諧の長者顔
- 御涅槃のかたきまぶたや雪明り
- 冬の蠅出て来て人にとまりけり
- 寒鮒の釣り上げらるゝ水面かな
- 寒鮒にまじりて由々し手長蝦
- 寒鮒の汲みかへられて澄みにけり
- 竹藪に散りて仕舞ひぬ冬椿
- 枯木宿カラタチの実の見ゆるなり
- 寄生木と鳥籠かけぬ枯木宿
- 肩出して大根青し時雨雲
- 土ながら大根つまれぬ雪や来ん
- 冬枯や水の溜りし寺の庭
- 雪の戸にいつまで寝るや御元日
- うしろより初雪ふれり夜の町
- 天暗く七種粥の煮ゆるなり
- 人の日や読みつぐグリム物語
- 雪掻けば直ちに見ゆる礼者かな
前田普羅 プロフィール
前田 普羅(まえだ ふら、1884年(明治17年)4月18日 - 1954年(昭和29年)8月8日)