事柄のこと。俳句で詠むには不向きな題材とされています。何故か?事柄を説明しようとすると大抵の場合、十七音では足りないからです。さて先日の句会でこの句が出て、人気を集めました。
シャンパンを割りて進水桜東風(さくらごち) 福花
シャンパンのしずくがきらきらと飛び散る景が見えてきます。いい句だと思いますが、別のやり方もあります。進水式という事柄をいわずに、モノから想像させる方法です。次の句をごらんください。
シャンパンを船べりに割る桜東風
これでも進水式だとわかります。船べりというモノが入ることで、レジャーボートのようなあまり大きくない船の姿が見えてきませんか。では次の句はどうでしょう。
シャンパンを船首に割りぬ桜東風
船首とすると、今度は大きな客船や貨物船の姿が目に浮かびます。船べりや船首のようなモノには手触りがあり、よりリアルに感じられるだけでなく、船の大きさまで語ってくれます。つまり情報量が多い。俳句の描写はコトよりモノ。そう覚えてください。ここ、試験に出ますよ。蛍光ペンでマークしておきましょう。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」