杉山の暗きに花の吹雪きをり 石田郷子
映画の一場面を思わせる一句です。背景は杉山。植林の杉山は手入れが行き届いていて、高さや枝ぶりが揃っています。日は陰り影になった杉山は、青い闇の中に沈んでいます。それを背景にして突然湧き上がる花吹雪。手前には日が当たっていて、桜の花びらが光り輝いています。暗と明の対比。静と動の対比。光の設計が巧みで、優れたカメラマンのような構図。映画のカメラの巨匠はマスターズ・オブ・ライトと呼ばれます。つまり、光を操る人。例えば、ゴードン・ウィルス。「ゴッドファーザー」の撮影監督です。映画の室内は暗く、琥珀色の闇に沈んでいます。人の顔には影が差し、心中の葛藤を伺わせます。しかし窓の外の景色は光り輝き希望に溢れているように見えます。描いたのはアメリカの影と光。光の設計によって心象の明暗まで表現していました。そんな映像設計が、この一句にも感じられます。俳人は、言葉によって映像を描き出すのです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」