にゅうしゃしき「入社式(春)」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




廃炉作業志願者三人入社式   名取里美「森の螢(2020)角川書店」

全て漢字で出来ている重たい語感の一句。入社式といえば、将来への希望に溢れた季語。それなのにこの重苦しさはどうでしょう。廃炉作業はおそらく原子炉。メルトダウンを起こしたフクシマ第一かも知れません。何年かかるかわからない作業です。国と東電が作業計画を定めた中長期ロードマップによれば、廃炉完了まで30年から40年。実際にはそれ以上の期間が必要でしょう。まず汚染水対策。燃料取り出し。燃料デブリ取り出し。廃棄物対策。作業の安全確保。問題が山積です。しかし、誰かがやらなければならない仕事。志願する新社員がいるという事実に希望を抱きますが、三人という人数をどう考えればいいのでしょう。三人も、なのか。それとも、たった三人なのか。彼らが定年を迎えた時、まだ完了していないかも知れない遠大な作業です。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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