とりかえる「鳥帰る(春)動物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

切株に座れば斜め鳥帰る   中西夕紀「くれなゐ(2020)本阿弥書店」

ちょっと座りたくなってあたりを見れば、程よい切株が。水平だと思って座ったら、少々傾斜していた、と言うところでしょうか。目ではわからなくても体の感覚で気づくことがあります。傾斜もその一つ。ぐらっとして空を仰いだら、鳥たちが北へ帰ってゆくところでした。自身の不安定さとあるべきものがなくなる寂しさが、絶妙に呼応しているように思います。歳時記によれば「鳥帰る」は、雁(がん)、鴨(かも)、鶴(つる)、鶸(ひわ)、鶫(つぐみ)などの秋冬に飛来し、越冬した鳥が春に北方の繁殖地に帰ること。せっかく春が訪れたのに、まだ寒さが厳しい場所へ向かうとはなんと不思議な習性なのでしょう。鳥たちは自分の力だけをたのんで危険を顧みず、未来を切り開いて行きます。考えてみれば人間にも安定した生活を捨てて、わざわざ困難を選ぶ時があるのでしょう。切り株に座ることで気づいた広い空への憧れ。それが自由へと人間を突き動かすのかも知れません。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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