やで切つて名詞で止めよ初句会 今瀬剛一「甚六(2020)本阿弥書店」
俳句に親しんでいる人は「わかるわかる」。知らない人にはちんぷんかんぷんな一句でしょう。俳句に入門した人がまず学ぶのがこの作り方。俳人 藤田湘子が「新版 20週俳句入門(角川学芸出版)」で推奨しています。具体的に実践するとこんな句になるます。
名月や男がつくる手打ちそば 森澄男
この入門書は大変よくできていて、誰でも型さえ覚えればある程度の習熟が可能なように書かれています。従来の入門書に見られた精神論を遠ざけ、テクニカルに俳句作りの要点をまとめた画期的な書だと思います。
この型で大切なのは、「やで切った後ろは季語と無関係な言葉を入れること」。名月と手打ちそばが関係ないからこそ、一句の世界が広がります。もう一つは、「中七の言葉が下五の名詞のことを言っている」ということ。「男がつくるのが、手打ちそば」。つまり中七下五はひとつながりのフレーズでなければなりません。
このことを理解して掲句をもう一度見てください。初句会は、新年になってその年最初の句会。年頭にあたって、俳句の初心に帰ろうという宣言の一句。こんな心得まで作品になるのが、俳句の凄いところです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(新年)