去年今年闇の厚きは川の上 岸本葉子「つちふる(2021)角川書店」
去年今年と書いて「こぞことし」と読みます。元日の零時を境に去年から今年に移り変わること。「一瞬のうちに年が変わることへの感慨が籠る」と歳時記には記されています。大晦日、テレビでは紅白歌合戦が終わり「ゆく年くる年」が始まります。各地の除夜の鐘が厳かに写し出される中、新年が近づいてきます。街ではカウントダウンが始まり、渋谷では交差点に人が溢れます。そしてテレビの画像が初詣に切り替わり「あけましておめでとうございます」とアナウンサーが告げる、その一瞬を切り取った季語。皆さんも年が切り替わる瞬間に、何らかの感慨を抱いたことがあるのではないでしょうか。
さて掲句。初詣に寺社を訪れている作者。山上の寺かも知れません。東京であれば眼下には、街の灯が広がっています。その中に黒々と蛇行する光のない部分。それは川の上です。暗いといわないで「闇の厚き」と言ったところが、一句の眼目。それによって降り積もった時の厚みに思いを馳せることができます。東京であれば、関東大震災や空襲の際に大勢の犠牲者を出した川。その闇を見つめる作者の目には、新年を迎える期待だけではなく、歴史の深層まで映し出されているのかも知れません。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」