なんきんとかぼちゃどっちが好きですか 坪内捻典「ヤツとオレ(2015)角川書店」
ネンテンさんらしい、一筋縄ではいかない一句。本当はトシノリさんというらしいのですが、誰もそう呼びません。通り名はあくまでネンテンさん。必ず「さん付け」で
呼ばれる俳人は、ネンテンさんと子規さんくらいではないでしょうか。ネンテンさんの嗜好は一味違っています。カバを愛して全国の動物園を巡ったり、タンポポのポポのあたりを見つめたり。(たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ)甘納豆が大好きだったり(三月の甘納豆のうふふふふ)蛇口の独り言が聞こえたり(春の蛇口は「下向きばかりにあきました」)。
そんなネンテンさんがまたやって下さいました。掲句のことです。どっちが好きかと問われてもねえ。なんきんとかぼちゃ。同じものを指しているのですがよくよく考えると、違うようでもある。なんきんは音読みですから、なんとなく中華料理風。かぼちゃは和語ですから当然和食。ニュアンスの違いを鋭く突いた句ではないのか、などと考察することも可能。ですが力が抜けてしまって、力むのも野暮な気がしてきます。
この句の応用はいろいろ出来そうで、たとえば
赤茄子とトマトどちらが好きですか とか。他にも 蟷螂とたうらう、つまべにと鳳仙花、馬鈴薯とじゃがいも、などもいけそうです。でも断然なんきんとかぼちゃがいい。五七五のリズムにあいますし、どことなくユーモラス。「どちらが」ではなく「どっちが」という尋ね方にも勢いがあります。秋の夜長、どうでもいいことを真剣に論じあっているような楽しさにあふれた掲句。こんなことを考えている時点ですでに、ネンテンさんの術中にはまっています。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)