しゅんこう「春光(春)天文」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




春光や飯にかけたる塩見えず  小野あらた「毫(2017)ふらんす堂」

春光とは春の景色のこと。歳時記にはわざわざ「本来は春の風光のことであるが、春の光として詠んだ句が多い」と記されています。つまり、「景色のことですよ。光と勘違いしてしている人が多いから注意してくださいね」と丁寧に教えてくれているのです。

かく言う私も初め、「柔らかい春の光の中で見ると、ご飯にかけた塩の粒が見えないよ」と解釈していたのです。歳時記を引いて景色だとわかって解釈変更。春の景色を見ながら塩むすびにかぶりついているところと合点しました。おむすびに塩がついているようには見えないが、食べてみるとしっかり味がする。「ああ、なんて美味しいのだろう。ゆったりとした春景色を見ながら食べるおむすびは」となるのか、それとも「あれ、しょっぱいぞ、このおむすびは」なのか。あなたはどう鑑賞したでしょうか。

食べ物の句が多い作者。「食べ物の句は美味しそうに詠むこと」が作句のルールの筈なのに、どう見ても美味しくなさそうなものも句にしています。その「ずれ」を楽しませてくれるのが、小野あらたという作家。考えて見れば、食べたもの全てが美味しかったなんて嘘。ルールに縛られず、現実の世界そのままのリアルを追求しているのでしょう。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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