稲刈つて顎を最後に立ち上がる 西山ゆりこ「ゴールデンウィーク(2017)朔出版」
稲刈りの後の動作を精密に写生しています。まず、腰をかがめて稲を刈っています。よっこらしょと立ち上がる。まず膝が伸びます。腰を伸ばします。背中が真っ直ぐになり、顔が空を向きます。そのとき顎が最後に上を向きます。一連の動作を「顎を最後に」という措辞で見事に描いて見せました。まるで分解写真を見るようです。俳句のわずか17音で、ここまで動きを再現できるとは驚き。作者は稲刈りを実際に体験したのでしょう。その時の観察が一句のもとになっています。でなければ「顎を最後に」は出ない。さて、この後どうなったか。腰をトントンと拳でうち、片方ずつ肩をほぐします。うーんと空へ背伸びして、首に巻きつけたタオルで汗を拭います。秋空の青が目に染みます。「稲刈り作業は好天を見計らって行われ、収穫の喜びを直に感じることができる作業である」と歳時記に。まさにその通り。今どきの稲刈りは機械化されていますから、体験用の田んぼかもしれません。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)