いちやうちる「銀杏散る(秋)植物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




いちやうちるひかりをつちにかへすため  蜂谷一人「青でなくブルー(2016)」

「銀杏は晩秋、一斉に黄金色の葉を落とす。青空を背景に輝きながら散り、秋の終わりを象徴する美しさである」と歳時記に記されています。銀杏の色は、太陽の金の光をためたものではないか、とある時思いました。

太陽は大地を照らします。大地は光を吸収し、光は地下水にきらきらと宿ります。木は水を吸って、光を体内に取り込みます。光は水とともに幹を昇って行きます。だから幹に耳を当てると水の音が聞こえます。光は幹から枝に渡ります。そうして小枝の一本ずつに染み渡ってゆきます。やがて葉に辿り着き、葉を黄金色に染めてしまいます。

でももう冬が迫っています。太陽は衰え、大地を温める力を失ってしまいました。大地は寒いのです。そこで銀杏は、黄金の葉を降らせます。光を溜め込んだ葉は土に降り積ります。光で温まった土は、優しく木の根を抱きしめてくれます。

こうして、空から降ってきた光は、土に水に木に葉に姿を変え、また土に戻って行きます。では、次の春が訪れたらどうなるのでしょうか。

光はまた幹を昇って葉に染み渡り、葉を輝かせます。葉がざわざわと揺れる時、光る風になって空へと旅立って行きます。春が明るいのは、光が降り注ぐだけではなく、空へ帰ってゆくからでもあるのです。

空へ帰った光は、鳥たちに大地と木の物語を話します。すると若葉の頃、その木を見ようと鳥たちが空から降りてきます。だから銀杏の葉は鳥のかたちをしているのです。鳥のかたちをした若葉は、秋になるとまた色を変えます。やがて金色の鳥たちが木に別れを告げ、舞うように散ってゆきます。

だから去年も今年も来年も、銀杏が散るのは光を土に返すためなのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)






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