ポロシャツの鰐をめがけて水鉄砲 太田うさぎ「俳コレ(2011)邑書林」
アンソロジー句集からの一句。水鉄砲は夏の季語「水遊び」の傍題。ポロシャツの鰐とはラコステのことでしょうか。1927年、テニス選手だったルネ・ラコステが襟付きの半袖ニットを、テニスコート上で初めて着用したことがブランドの起源だそうです。もともとポロ競技の選手が着ていたものなのでポロシャツ。「ポロシャツはラコステが発明した」という俗説は、どうやら真実ではないようです。ラコステのトレード・マークと言えば胸につけられた鰐。これは彼のプレイ・スタイルによるものだそうです。彼は「アリゲーターのラコステ」という仇名で知られたのだとか。日本人にはピンときませんが、欧米では鰐は 強くて粘り強い動物とされているのですね。
さて掲句。何かを発射する際には、的が必要です。夜店の射的とか、ダーツとか、なにも無いところには撃ちません。胸の小さな鰐はまさにうってつけの的。水辺の生き物なので、水がよく似合います。これがもしも傘や白熊だったら、水鉄砲が似合いません。ポロシャツなら何でもいいという訳ではないのです。水のきらめきと歓声が聞こえてきそうな一句。
それにしても、ラコステが大流行したのは80年代。サーファーカットにミハマの靴、クレージュのバッグで女性が街を闊歩した時代です。ところが最近、人気が復活しているのだとか。聞くところによれば英国人のデザイナー ルイーズ・トロッターさんが就任したお陰らしい。ラコステよ、永遠なれ。
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」