雨がざあざあ、犬がわんわんといったことばを オノマトペと言います。中でも「ざあざあ」などの状態を表すことばを擬態語、「わんわん」などの音を表すことばを擬音語といいます。俳句の入門書には必ずオノマトペの章がありますが、私は疑問に思っています。初めのうちは避けたほうがいい、というのが私の意見。何故ならオノマトペを使いこなすのは大変難しいからです。
私自身、トラウマがあって長い間オノマトペを使えませんでした。(今では恐る恐る使っていますが)ある句会でオノマトペの句を出したところ、先輩から「僕は取らない」とたしなめられた経験があるからです。その方が言うには「俳句は十七音。季語と切字で五音。残り十二音しかないのに、オノマトペで四音取られるのはもったいない」
確かに、月並みなオノマトペで四音取られるのは痛い。用いるからには、これまで誰も使わなかった言葉でなくてはなりません。しかし初めのうちはどれが使い古されていて、どれが新しいのか判断が難しい。経験を積み多くの句に触れて、ありふれているかどうかがわかるのです。だから当面 使わない方がいい。
と言ってしまうと身も蓋もないので、ひとつ裏技をお教えします。
大鯉のぎいと廻りぬ秋の昼 岡井省児
掲句の「ぎい」がオノマトペです。「ぎい」というと何を連想しますか。たとえば錆付いたドア。きしんだ舟の櫓。そうですよね。普通、鯉には用いません。こんな風によくあるオノマトペを違う場面で用いることで、二つの効果が期待できます。
まず ありふれた表現から抜け出せること。
次に 連想が広がること。掲句の場合、きしむ音を連想させる「ぎい」という言葉のおかげで鯉が舟のように大きく、ゆっくりと廻る場面が想像されました。新しいオノマトペを自分で作り出すのは至難の技。でも、すでにあるものの使い方を変えることは少しの努力で出来るはずです。