二十年(はたとせ)をはしよるはなしや桐の花 恩田侑布子「夢洗ひ(2016)角川書店」
桐は五月上旬、筒状の淡い紫色の花をつけます。この時期、山を旅すると新緑の間に夢見るような、思い出を懐かしむような薄紫が覗きます。中国では鳳凰のとまる木とされた桐。美しく気品を感じる花です。
さて掲句。何の話をしているのでしょうか。お嫁入りする娘の、少女時代の話題かもしれません。昔は女の子が生まれると、庭に桐を植える風習があったそうです。大切に育て、お嫁入りするときに切り倒して箪笥を作り、嫁入り道具にするのです。桐を庭に植えて二十年。あっという間だったね、などと言い交わしているのでしょうか。
「はしよるはなし」と、「は」の音と「し」の音が重なってリズムを紡ぎます。親と娘の会話にしみじみとさせられます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」