蝶殺めたる指細き男役 対馬康子「天之(2007)富士見書房」
作者は元宝塚歌劇団トップスター姿月あさとさんの大ファンで、句にも多数詠んでいます。昨年、選者を務めていただいたNHK俳句。姿月さんをゲストにお招きした際、その連作を紹介しました。
掲句はその一つ。指細き男役という言葉は、まさに姿月さんの特徴を捉えたもの。指先までよく観察しているファンならではの視点です。役柄なのか、美しいその男が蝶を殺めた。残酷さと繊細さが混ざり合い不思議な世界を作り出しています。
姿月さんは「宙組」の立ち上げメンバーに選ばれ、初代のトップススターに。1999年、主演した「激情-ホセとカルメン」で第54回芸術祭賞演劇部門優秀賞を獲得。翌年の退団の際には、チケット競争率、ファン動員数が当時の史上最高を記録したそうです。
実は俳壇にはヅカファンが多い。女性と男性。優雅と冷酷。慈愛と勇気。矛盾するものを併せ持つ宝塚の舞台が、俳句にも通じているからだと思います。
ちなみに、句集「天之」にはこの句に続いて
- 二階席より緞帳に雁ゆくを
- サングラス素顔幼きこと隠す
- ひきちぎるように着替えて虹に立つ
- 春風の広場に集うだけの役
- 薄羽蜉蝣台本を丸め持つ
- 朧夜に闇を広げてゆく両手
など舞台を詠んだ十三句が連続して掲載されています。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」