きょしき「虚子忌(春)行事」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

大仏も観音も老ゆ虚子忌かな   坊城俊樹「壱(2020)朔出版」

高濱虚子が亡くなったのは1959年4月8日。ですから虚子忌は春の季語。椿寿忌とも言います。長年鎌倉に住んでいましたから、おそらく大仏は鎌倉の大仏。観音は長谷寺の観音菩薩のことなのでしょう。仏像は人の命よりもはるかに長い時の流れを見つめてきました。しかし、物には必ず終わりが来ます。無生物に時間が経過して劣化することを「古ぶ」といいます。しかしここでは「老ゆ」が使われました。仏像が生きているように感じられる動詞です。あの仏たちですら、老いから逃れることはできない。その先には、朽ちて忘れさられる未来が待っています。大虚子と呼ばれ、長年俳壇を牽引した虚子も亡くなって60年以上が経過しました。直接薫陶を受けた俳人たちも多くがこの世を去りました。虚子の曽孫である作者もすでに還暦を越えています。仏像を詠みながら、実は人の世の移り変わりの速さに思いを馳せているのでしょう。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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