鑑賞で心がけるべきことは「丁寧」です。
丁寧とは、句の一文字一文字を厳密に読み解いてゆくことです。たとえば「てにをは」。
「○○に」と書いてあるが厳密には「○○へ」とすべきではないか、などと丁寧に読んであげます。助詞の「に」は場所、「へ」は方向ですから意味が随分違います。
しかし多くの初心者の方はごっちゃにしています。
この「丁寧」の反対が「親切」です。人に親切にするのはよいことですが、俳句では親切に読んであげてはいけません。親切とはそこに書かれていないことを頭の中で補い、作者の意図を忖度して鑑賞することです。
それはあなたの妄想であって、作者が表現できたことではありません。この丁寧と親切を混同している方が多いのでどうぞご注意を。
もうひとつ大切なこと。鑑賞は「季語がどう働いているのか」を中心に。一句の中心が季語だとすると、その働きを読み解くことで一句の構成が理解できるようになります。
さて、先日句会で次の句が出されました。
焼香のあとの青空鳥交る 福花
この句を選んだある人は「鳥交る」を行き交う鳥と読みました。
しかし、それでは青空の広がりしか見えてきません。何故焼香なのか、曖昧になってしまいます。
実は「鳥交る(とりさかる)」とは春から初夏にかけて野鳥の繁殖期に鳥が盛んに囀り交尾をすること。繁殖の季語と解れば、焼香との対比がはっきりとします。
死と生という詩の普遍的なテーマに気づくことで、一句をより深く理解できるようになるのです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」