上五が名詞、下五も名詞の句を山本山と呼ぶことがあります。「上から読んでも山本山、下から読んでも山本山」のコマーシャルでおなじみですよね。覚えやすくて素敵なネーミングなのですが、俳句では要注意。中七が上につくのか、下につくのかわかりにくいためお勧めできないかたちとなります。次の句は酒井敏也さんが「俳句さく咲く!」の勉強会で詠んだ一句。
登山道真下に見ゆる黒部川 酒井敏也
黒部川という地名がいきた一句ですが、ややわかりにくいのが難点。登山道が真下に見えるのか、真下に黒部川が見えるのか、一瞬迷いませんか。意味を考えれば真下に見えるのは川の筈ですが、そこに行き着くまでに少々時間がかかります。一読してすっと景が浮かぶのがよい俳句。山本山の句はできれば避けたいものです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」