- 屋根の上に人現れし野分かな
- つやゝかに蔓の実さがる雪解かな
- 凍解の径光りそむ行手かな
- 春の山隼松を流れけり
- 花供養雨やどりして待ちにけり
- 指先を流るゝ如し種を蒔く
- 懸葵しなびて戻る舎人かな
- 水打って祭提灯ともしけり
- 雨だれにこちたくゆるゝ擬宝珠かな
- 一人立ち一人かゞめるあやめかな
- 若鮠のそよと逃げたる夜振かな
- お花畑行き交ふ人の白衣かな
- 円虹に立ち向ひたる巌かな
- 御来迎人々数珠を揉みにけり
- 蓑敷いて長脛抱きぬ夜水番
- 大根の供養のあとの法話かな
- 大阿蘇の浮びいでたる花野かな
- 春雨や寂光院の傘さして
- 傘さして雑誌讀みゆく春の雨
- 雪解の飯田の町の長さかな
- 洗ひたる遍路の杖を床の間に
- 鶯や亜米利加人に買はれゆく
- 遅櫻一本ありぬ花の寺
- 三方の花を見下ろす茶店かな
- 前山の瀧細うして長きかな
- 姉弟で守れる瀧の茶店かな
- しきたりの山堂守へお中元
- 御所車暫くとまる橋の上
- 傾きて鳥居をくゞる神輿かな
- 地主の子が來て興さめし涼みかな
- 旅鞄あけて扇を出しにけり
- またゝびの實をむさゝびが喰うて居る
- 名物の遅筍や峰の寺
- 笹の子のうす紫や小筆ほど
- 瓜盗み來て泳ぎ食ふ乞食かな
- どこまでも土塀ばかりや秋の暮
- 屋根の上に人現れし野分かな
- 石段を犬のぼりくる良夜かな
- 月を見る又二三歩を移しけり
- 母居ねばおとなしき子や秋の雨
- 東西に別れて下る秋の山
- 日出でて露一杯の花野かな
- 屋根のある橋も渡りて紅葉狩
- 塗駕の中ぞゆかしき草紅葉
- かくれ家に帰ると金のとゞきし師走かな
- 買物の妻に出逢ひぬ年の暮
- 窓あけて見送つてゐる時雨かな
- 二階より見下してゐる焚火かな
- 河豚汁や無きに等しき我心
- うで玉子むきつゝ來るや落葉道
- 枯蘆の中あたたゝかき舟の路
野村泊月 プロフィール
野村 泊月(のむら はくげつ 1882年6月23日 - 1961年2月13日)