きげんせつ「紀元節(春)行事」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




見切品ばかり売る店紀元節  星野高士「残響(2014)深夜叢書社」

「紀元節は、古事記や日本書紀で日本の初代天皇とされる神武天皇の即位日をもって定めた祝日。日付は2月11日」とウィキペディアに記されています。敗戦後、この祝日はGHQによって削除され、その後国会で数度の廃案と再提案が行われました。1966年になってようやく「国民の祝日に関する法律」の改正により「建国記念の日」となったということです。紆余曲折を経て現在の形になった記念日。激動の昭和の歴史が刻まれた一日です。

最近まで、お年寄りの間では「紀元節」という言葉が使われていました。その話になると必ず出てくるのが、1940年の紀元節に行われた「紀元二千六百年式典」。全国11万もの神社で大祭が行われ、展覧会、体育大会など様々な行事が行われたそうです。

前置きが長くなってしまいましたが、この歴史を知らないと掲句の内容が伝わりません。紀元節が季語ですが、多分戦前の話ではなく現代。建国記念日を今でも紀元節と呼ぶ古風な店主がいて、見切り品を安く売っているのでしょう。例えば場所は神社の門前。ガタピシいう戸を押しあけて入ると、売り物にうっすらと埃が積もっています。落語に出てくるような道具屋さんを想像しました。抜けない木刀や、すぐに首の抜ける雛人形などなど。特に魅力的な品物もなさそうですが、それでも店主に付き合って昔話に耳を傾ける作者。のんびりとした早春の空気が伝わってきます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






おすすめの記事