ポーの村よりやつて来る黒揚羽 金子敦 暗喩や引用にみちた作品の迷路に迷い込むのも俳句の楽しみの一つです。とりわけ、自分の大好きな作品がテーマになっていると聞けばなおさら。 1865年、グレンスミス・ロングバート男爵は狩の最中にある村に迷い込み、鹿と間違えて少女を撃ってしまいます。少女の名はメリーベル。兄のエドガーに「...
俳句の作り方
俳句の作り方の記事一覧
仏壇の奥に桑の実つみにゆく 鳥居真里子 植物の季語は取り合わせが難しいと言われます。何にでもあってしまう、言い換えれば季語が動くことが多い。しかしもちろん例外もあって掲句の季語は桑の実でなければなりません。 「桑の実は初め赤色で、やがて七〜八月に紫黒に変じて熟す。多汁で甘い」と歳時記に。昔、きょうだいや友達と摘んだ...
私のやうな人ゐる霧の道 野口る理 同じ現象でも季節によって呼び名が変わります。春は霞。秋は霧。ちなみに霞は日中の現象ですが、夜は朧と言います。霧の中を歩くとき、普段とは違う感覚が目覚めます。乳白色の靄に覆われて、周囲が見えなくなる。声が遠くから聞こえたりもします。掲句はそんな霧の特性を述べているのでしょう。では「私の...
あら君は左ぎっちょね衣被 池田澄子 衣被は、小ぶりの里芋を皮のまま茹でる料理。包丁で切れ目を入れてあり、指先でつまむとつるりと皮がむけます。これは、指でつまんだ瞬間を切り取った一句。左手でつまんだのを作者は見逃しませんでした。 今生のいまが倖せ衣被 鈴木真砂女 衣被の一番有名な句がこれ。恋に生きた真砂女の生涯を...
少し前まで、ホームレスは俳句の題材とはみなされませんでした。見えているのに、見えていないふりをされるもの。雅な俳句の世界とは無縁であると考えられてきたのです。でも今は違います。 地下道にゐる人間ときりぎりす 茅根知子 季語はきりぎりす。イナゴに似ていて、チョンギースと鳴くアレです。秋の虫の仲間ではありますが、蟋蟀や鈴...
ひざまづき挿してもらひぬ赤い羽根 金子敦 行事を俳句に詠むのは難しいとされます。期間が長い上に、構成要素が多様だからです。例えば「赤い羽根」毎年十月一日から一ヶ月間行われる共同募金のこと。ご存知ですよね。始まりは秋で、終わりは冬。途中で季節が移り変わります。あの針金に赤い羽がついた代物の色形を詠むのか。募金に携わる...
奥座敷菊の被綿なるを手に 岸本葉子 エッセイストで小説家。才能豊かな作者の第一句集「つちふる」よりの一句。つちふるとは、大陸から飛んでくる黄砂をさす言葉。霾という難しい漢字も存在します。記念すべき第一句集の題名になぜ、少々鬱陶しい季語を選んだのか。作者に伺うと、本格派の句集を目指したからとおっしゃっていました。歳時...
帰省子の一夜は灯し通しなり 今瀬剛一 故郷を離れている学生や会社員が長期の休みを利用して、郷里に帰るのが帰省。「俳句では夏休みの帰省をさすことから夏の季語とするが、実際に帰省がピークを迎えるのは八月半ばの月遅れの盆前後で秋」と歳時記に。夏の季語なのに、実際は秋の出来事だと。ちょっとややこしいですね。 さて掲句。故郷の...
ある時、句会で「恋」を詠めというお題が出ました。みなさん頭を抱えましたが、私ときたら七転八倒。だってあまりに昔のことで思い出せなかったのです。その挙句、なんとか捻り出したのが次の一句。 蚊遣火の赤き一点とは恋か 蜂谷一人 蚊遣火とは蚊取り線香のこと。火をつけると、小さな炎が螺旋の中心へゆっくり動いて行きます。埋み火...
南風吹くカレーライスに海と陸 櫂未知子 この句については作者から直接、誕生の秘密を伺いました。自宅のマンションのベランダで、旦那様とランチをとっていた時のこと。たまたまカレーの話になったのだそうです。(ただし食べていたのはカレーではなくシャンパンを抜いたりしていたとか) なぜイタリアンを食べながら、カレーの話になるの...
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