かやりび 蚊遣火【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】

ある時、句会で「恋」を詠めというお題が出ました。みなさん頭を抱えましたが、私ときたら七転八倒。だってあまりに昔のことで思い出せなかったのです。その挙句、なんとか捻り出したのが次の一句。

蚊遣火の赤き一点とは恋か   蜂谷一人

蚊遣火とは蚊取り線香のこと。火をつけると、小さな炎が螺旋の中心へゆっくり動いて行きます。埋み火のような色が、消灯した寝室で妖しく光リます。激しく燃え上がるのではなく、秘めた想いのように抱き続ける熱さ。眠れない夜は、ついそこに目が行きます。ふと禁じられた恋に似ていると思い当たりました。人に言えないから燻り続けます。一旦点火された激情は消えることがありません。ぐるぐると頭を巡り、叶うわけでも諦めるわけでもなく、最後の一点へと向かってゆきます。そして、すべてを灰にしてしまいます。

さて正木ゆう子さんは、自らの恋を詠む必要はないとおっしゃっています。自分の体験を詠もうとするから難しい。小説家になったつもりで、架空の恋を詠めばいいのだと。なるほど、それならばハードルがグッと下がりそう。あなたもどうぞお試しください。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 




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