アーモンド咲く青空へ枝放ち 片山由美子「飛英(2019)角川書店」
アーモンドの花が季語。日本では目にすることが少ないので通常の歳時記には掲載されていません。海外詠の多い作者らしい季語の使い方です。この句を読むとゴッホの「花咲くアーモンドの木の枝」という絵を思い出します。アムステルダムでこの絵を見たことがあるのですが、はじめ「桜」かと思ったほど、華麗で瀟洒な薄いピンク色の花でした。さてこの絵にはエピソードがあります。1890年1月31日。ゴッホの弟のテオとその妻の間に長男が生まれました。テオは兄に手紙でそのことを知らせます。ゴッホは折り返し「今日、吉報を受け取って、言葉で表せないほど嬉しい」という手紙を送ります。それだけでなく、その子のために、青い空を背景にしたアーモンドの木の枝を描き始めるのです。ゴッホの住む南フランスでは2月にいち早く花を咲かせるアーモンド。誕生を祝福するものとしてその花は描かれました。
掲句は、「枝放ち」と青空にむかって広がっていく表現を取っています。そのためすがすがしく、希望の光を一句から感じ取ることができるのです。ゴッホの絵と同じく、いのちの輝きに満ちた一句です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」