シャルドネのしづかに育つ雲の峰 小島健
私は、最近俳句を絵画や動画の用語を用いて批評できることに気付きました。掲句で言えばこんな感じです。
シャルドネは葡萄の品種。フランスのブルゴーニュやアルザス地方で栽培され白ワインの原料になります。地上では葡萄が静かに熟れてゆく。空には雲の峰が育っている。「育つ」で切れているのですが、「育つ雲の峰」と表記の上では繋がっています。このちょっとしたレトリックが、入道雲が湧き上がる様子を読者の脳裏に焼き付けます。
仮にこの句を動画と考えた場合、どんな動きが見られるでしょうか。上に向かって成長する雲は上昇のベクトル。下に向かって重く実る葡萄は下降のベクトルです。カメラマンは、シャルドネの房を手前に大きく置き、遠景に入道雲を配置するでしょう。画面の下半分が葡萄、上半分を空とすれば、真ん中あたりで上昇と下降の運動が釣り合います。静止画のような構図ですが、二つの力が拮抗して画面に緊張感を与えています。
さて色彩にも触れてみましょうか。ここにワインは登場しませんが、シャルドネという言葉で程よく冷えたグラスを思い起こします。脳裏にワインの映像が刻まれたところに、雲の峰が登場する仕掛けです。輝く雲と透き通る白ワインの残像。二つの白が眩しいほどです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
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