じあまり 字あまり【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




2021年度のNHK俳句の選者をつとめていただいている片山由美子さん。俳句のルールに厳しい方ですが、番組では「見直し 俳句の常識」を掲げています。俳句のルールは重要。ルールがあるからこそ、自由になれる。ただ縛られすぎてもいけないし、ルールの誤解もただしたい。とのこと。

一回目のテーマは字あまり。五七五の定型を守るのがルールですが、ときに字余りがOKの場合があるというのです。では突然ですが、次の中で許容できるのはどれでしょう。

1.クリスマスケーキ最後に買ひて家路へと
2.バレンタインデー遺影の父にもチョコレート
3.黒土にすぐまぎれゆく花種撒く
4.つばめつばめ泥が好きなる燕かな

番組をご覧になった方は、見たことのない句が入っていると思われたかも知れません。実は台本に入っていたものの時間の関係で紹介できなかった句も含まれています。正解は1.〇 2.〇 3.× 4.〇 いかがでしたか?

1. は八七五の句。上五が字余りですが、クリスマスケーキのような長い外来語は早く言えることが多いので、字あまりが気になりません。

2. は八八五。先ほどの解説の通りバレンタインデーは長くても一息で言えるのでOK。でも「遺影の父にも」の「も」は省けるのではと思った方いませんか。私もそう思いました。ところが片山さんによれば、意味の上で「も」は省略できないとのこと。「も」があるために、作者の父への情愛が一層感じられるというのです。なるほど。

3. は五七六。下五が六音で字余り。はなだねまく、とぎくしゃくした音が続くうえに、下五の字余りは韻律的に難しいとのことでした。

4. は細見綾子の句。六七五ですが、つばめつばめと一息で言えるのでリズムが気になりません。

要点は、指を折って五七五を数えるのではなくリズムとして捉えるということ。字余りでも口に出して、聞いて、違和感がなければOK。その点で音楽に似ていると片山さんは言います。

例えばショパンのノクターン嬰ハ短調「遺作」。最後のパートで18連符、35連符、11連符、13連符が続きます。通常なら1小節に4分音符が4つ入る決まり。ところが同じ拍数の中に、18,35,11,13もの音が詰め込まれているのです。しかも優れたピアニストの演奏を聴くと、流れるようで全く忙しさを感じません。この日のゲストはピアニストの反田恭平さん。その演奏はあくまで滑らかで透き通るよう。ご本人に伺うと「音符の多さに気づかれないように弾いている」とのことでした。俳句の字余りもこれと同じ。聞いて気持ち良ければ字余りも許容されるのです。指を折って音数を数えているあなた。これからは、指ではなく耳を信じてください。ちなみに、反田さんはこの出演からまもなく、ショパン・コンクール二位に輝きました。

さてここからは余談。縁あってバルカン半島のダンス音楽をよく聞きます。9拍子、11拍子、13拍子などの変拍子が普通で、楽譜を見ると頭がパンクしそう。ところが現地ではお爺さんやお婆さんが楽しそうに踊っているのです。1234、うん、1234という風に体でリズムをとれば9拍子も簡単。ところが頭で考えると難しい。俳句の字余りと似ています。え、それってどんな音楽なのと思ったあなた。インターネットで手軽に聞くことが出来ますよ。どうぞ北マケドニア共和国の「ラジオ・カヴァダルチ」を検索してみてください。
https://radiokavadarci.mk/

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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