きがさなり 季重なり【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




一句に季語が二つ以上はいる季重なり。通常は避けるべきものとされています。季語は句の中心をなす言葉。季語が多いと中心がぼやけてしまいます。ところが何にでも例外があるもの。季重なりが許容される場合を片山由美子さんに伺いました。では、今回もまずクイズをどうぞ。以下の中でOKのものをお答えください。

1. ボート休めて満開の花の下
2. 枝豆や団扇片手に見る花火
3. 春すでに汗ばむほどの日となりぬ
4. 女郎花少し離れて男郎花

要点は、一句の中の主役。二つの季語があっても主役がはっきりしていれば問題ないのです。

さて正解は1.〇 2.× 3.× 4.〇 まず1.はボート(春)と花(春)の季重なり。ボートは年中あるので、時期が限られた花(桜)のほうに季節感があります。年中あるものは季語ではなく素材として扱えるということ。覚えておきましょう。

2.は枝豆(秋)、団扇(夏)、花火(夏)と三つも季語が入っているうえに、秋と夏と季節もばらばらです。これではいつの季節を詠んだものかわかりません。当然×。さて最後の3.は春と汗(夏)の季重なり。しかし、汗は年中あるものなので素材扱いできる、だから〇と思いませんでしたか。実は私の答えも〇でした。

しかし正解は×。何故なら、春に汗ばむほどの陽気は「春暑し」という季語に言い換えられるから。歳時記を引くと「春暑し 春でありながら、晴天の続いた時など、どうかすると汗ばむような暑さを覚える時がある。薄暑(初夏)とは違う春のうちの暑さをいう」と記されています。

3.の句は歳時記の解説そのまま。解説を五七五にならべても俳句にはならないのです。最後の4.は星野立子の句。女郎花(秋)男郎花(秋)が並列に並べられています。やさしいイメージの女郎花は黄色。

これに対して、強そうな男郎花(秋)は白。ここでも一句の主役がどちらなのかがポイントです。答えは女郎花。黄色が目に鮮やか。やさしそうなのに、こっちの方が目立っているというところに、一句の眼目があります。並びを変えて「男郎花すこしはなれて女郎花」だったらどうでしょう。強そうで地味な男が目立って、やさしそうで艶やかな女性が一歩下がった印象。なんとなく男尊女卑の気風を感じて面白くありません。ここはやはりレディーファースト。女郎花が先でなくては。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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