「夏はじめ(夏)」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




水族館へ水運ぶ船夏はじめ  石井清吾「水運ぶ船(2020.12.10)」より

作者はあとがきにこう記しています。「ある日、港で見かけた水色の船が、和歌山県沖から大阪の「海遊館」に海水を運ぶ船だと知った時の驚きを詠んだ句です」と記しています。

水に浮かぶ船が水を蔵しているという驚き。水を運ぶのがパイプではなく、船だという驚き。いくつもの驚きが詰まった句だと思いました。私自身は、水族館の海水が遠くの海から運ばれているということに驚きました。黒潮の生き物たちには、和歌山沖の海水がいちばんあっている、などといった理由があるのかもしれません。そんなこと、これまで考えたこともありませんでしたが。

こうした事柄を詠んだ句は、ともすれば抽象的になりがち。しかし掲句は水運ぶ船の映像をしっかりと読者に手渡します。夏はじめという、すがすがしく気持ちのよい季語が一句を引き締めています。

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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