有季とは季語を入れること。定型とは五七五のこと。定型がスーツだとしたら有季はネクタイのようなもの。スーツさえ着ていればシャツの胸をはだけても様になりますが、ネクタイを締めると俄然グレードアップします。三ツ星のレストラン、五つ星のホテルでも臆することはありません。ネイビーのスーツに青系のタイならシックな装い。ボルドーならば自分を押し出して。黄色ならフレンドリーな私。緑なら協調性のある個性を演出。知らない方に会うときにこうした印象は決定的に大切です。わたしの中身を相手は知る由もありませんから、まず見かけで判断されます。これは俳句でも同じ。有季定型を守っていさえすれば、まず20点くらいの評価はもらえます。いわば「下駄をはかせてもらえる」わけです。この基礎点の上に内容を上積みすれば合格の60点は目の前。基礎点なしで合格を勝ち取ろうとするのは、かなりの実力が必要です。初めのうちは俳句は季語があるから難しいと考えます。実は全く逆。季語がある分合格しやすくなっているのです。
さて、有季定型。一説によればスーツはもともと軍服から発展したものだとか。それだけに堅苦しい印象は否めませんが、ネクタイで色を添えることで様々な雰囲気を演出できます。スーツとネクタイ。有季定型、時代を越えて滅びないスタイルには理由があります。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」