冬河に新聞全紙浸り浮く
いわゆる花鳥諷詠の情緒とは無縁の作品。冬の寒々しい河に、新聞紙が浮かんでいます。徐々に水がしみて重くなってゆきますが、全紙に染みこむにはまだ時間がかかりそう。沈んで姿を消すこともできず、無様な姿をさらしています。自画像と読むこともできますが、私はあくまで実際の景として読みたいと思います。この身も蓋もないリアリズムこそ、戦後の俳句のひとつの到達点。誓子は昭和23年に俳誌「天狼」を創刊。西東三鬼、平畑静塔、秋元不死男らが集まり、やがて永田耕衣も参加しました。彼らは俳句の根源を問い、俳句の近代化をはかりました。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」