俳句ではモノを詠めと言われます。秋元不死男はこう述べています。「俳句が「もの」に執着しないと崩れてしまふ、といふ実感は、近年いよいよ僕を虜にしてゐるやうです(俳句と『もの』昭和29年)」
俳句とは言葉で出来た構造物。具体的なものは、部品として非常に堅固です。机と言えば、机を。椅子と言えば椅子を誰でもが思い浮かべます。読者が迷うことがありません。動詞となるとそうはいきません。多くの場合「見る」という言葉は省くことが出来ますし、「ある」「いる」なども不要の場合が多いのです。形容詞となるとさらに部品として脆弱。「大きい」「小さい」といっても何と比較して大きいのか、小さいのかわかりません。大きい蟻もいれば、小さい山もあるのですから。つまり情報が曖昧なのです。短歌のように31音あれば、動詞をいくつか使って事柄を描くことが可能ですが、17音の俳句ではそれは無理。俳句は名詞の詩形。短歌は動詞の詩形と呼ばれる所以です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」