うちみず「打水(夏)生活」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




水打つて旧町名を思ひ出す   櫂未知子「カムイ(2017)ふらんす堂」

季語は打水。夏の昼下がりや夕方、暑さや埃を抑えるため、水を撒くことです。大抵は涼しさを表現する時に使いますが、掲句の場合はそうではなさそう。旧町名を思い出すのですから、昔の記憶と結びついています。例えば、都会に出ていた人が久しぶりに帰省したとします。家の前に水を打ちながら、お手伝いをした子どもの頃を思い出す。そう言えば、当時はこんな殺風景な町名ではなかった。由緒正しい町名だったよなと回想に耽ります。打水が時間を巻き戻す装置として使われているのです。打水のちょっと珍しい用法です。さて、ひとしきり思い出に浸った作者。しばし暑さを忘れていました。あ、やっぱり涼しくなったんだ。本意をちゃんと押さえていたことに気づきました。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






おすすめの記事