なかむらくさたお・中村草田男(1901~1983)【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】




草田男は、はじめ歌人・斎藤茂吉の実相観入説を信奉。実相観入とは客観写生を重んじながら、そこに自分の生命を深々と注ぎ込むことです。歌作りの方法論でありながら、自己の救済につながるという難解な概念ですが、ヘルダーリンやドストエフスキーをよく読み、ニーチェに傾倒した草田男には、ぴったりの思想だったのかも知れません。

中国福建省アモイで生まれた草田男は三歳のときに母と帰国。松山中学、松山高校をへて東大独文科に入学しました。大学生のころは神経衰弱に悩まされ、休学した後 国文科へ移ります。卒業は33歳のとき。長い長い学生生活でした。ちなみに俳号の草田男は、休学中に親戚から「お前は腐った男だ」と痛罵され、その「腐った男」をもじって「草田男」としたと言われています。

秋の航一大紺円盤の中

草田男が瀬戸内海を航海したときの句です。秋の瀬戸内海の群青を一大紺円盤という造語を使って詠んだ巧みさ。こん、えん、ばん、と「ん」の音が続くリズムの面白さに溢れた句ですが、同時に哲学青年の未来への希望のようなものを感じさせます。草田男の句は単なる写生やわびさびを越えた人生に対する真摯な問いかけに満ちているのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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