とりあわせ 取り合わせ【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




季語と、季語に直接関係のないものを組み合わせた俳句を「取り合わせ」と呼びます。直接関係のない、と言っても全く関連性がなければ「季語が動く」と非難され、関係が強すぎれば「つきすぎ」と突き放されます。私たちが句会で見る俳句の八割くらいは取り合わせですが、実際のところかなり難しい技法と言わざるを得ません。さて取り合わせと聞いて、私が思い浮かべるのが次の句。

きつつきや缶のかたちのコンビーフ  藤田哲史「天の川銀河発電所(2017)左右社」

「きつつき」と「コンビーフ」の取り合わせ。新しい感性が光ります。そもそもコンビーフを詠んだ句は珍しい。でも、新奇というわけでもありません。日本での発売は1948年だそうですから、70年以上も歴史があります。あの「ノザキのコンビーフ」です。初めは瓶詰めで1948年から例の枕缶に。台形の缶で江戸時代の枕に似ていることから、そう呼ばれるようになったとか。かなり年配の方でもご存知の商品ではないでしょうか。

これまで詠まれてこなかったのは、「わびさび」の尊ばれる俳句の世界に馴染まなかったからでしょうか。あえて、素材にとりあげた作者の着眼点が素晴らしい。そして、「きつつき」。なぜ「きつつき」と「コンビーフ」なのか。正解というわけではなく、個人的な感想ですがどちらも「こんこん」するもの。啄木鳥は虫を探して木を叩きます。コンビーフは枕缶の縁を巻き取った後、底を叩いて皿に出します。皿の上のコンビーフはまさに缶のかたちをしています。

コンビーフといえば誰でも思い出す缶のかたちがあります。缶切りではなく縁を巻き取る缶だからこそ、この句が成立するのではないか。とまあ、こんなところが私の推理です。そう考えると、コンビーフでなければならない。他の缶詰ではダメなんだ、と空に向かって叫びたい気分です。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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