はるのしし「春の猪(春)動物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




春の猪出合頭に兜太の目  宮坂静生「草魂(2020)角川書店」

春の猪に出会ったら金子兜太の目をしていたよ、という句でしょうか。

兜太の目はわかるとして、なぜ春の猪なのか。現代俳句を牽引した巨星、金子兜太が亡くなったのが2018年2月20日。兜太に春の猪を詠んだ句がありますから、兜太へのオマージュと考えてよいでしょう。

猪がきて空気を食べる春の峠   金子兜太

兜太の故郷は秩父。古くから多くの猪がいたようで、ヤマトタケルが東征した折に猪を退治したという伝説も。それにちなんだ猪狩神社も現存します。空気を食べるとは、なんとも兜太らしいおおらかな表現です。

宮坂さんは、かつて現代俳句協会の会長をつとめ70周年の記念パーティーを主催しました。その席に車いすの兜太が出席し、よい声で秩父音頭を歌ったのを思い出します。亡くなったのはその三か月後のことでした。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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